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私たち日本人にとって、昔から身近にありながら実はよく知らない漆について判りやすく解説しています。


漆は古来より日本人の生活の中に様々な形で利用されてきました。縄文時代の遺跡からも漆器が発掘されています。また漆の木そのものも縄文時代より各地で出土しています。このことから漆は日本国内にもともと自生していたと考えられています。
漆は「ウルシオール」という物質によってアレルギー性接触性皮膚炎(うるしかぶれ)を起こしやすい事でも知られていますが、人によっては触らなくても近くを通っただけでかぶれてしまう事もあるようですが、中には全くかぶれない人もいるようです。 ではなぜ日本人は古くからそんな危ない樹木を利用してきたのでしょうか。漆によって日本人にもたらされたメリットとは一体何だったのでしょうか。

漆とは

ウルシ科ウルシ属の落葉高木。
学名:Toxicodendron vemicifluum・英語:Lacquer tree)
日本や中国をはじめタイやベトナムなど東南アジアに広く分布していますが、主成分は漆樹種によって異なっています。
日本・中国産漆樹:ウルシオール(urushiol):C21H3302
台湾・ベトナム産漆樹:ラッコール(laccol):C23H3602
タイ・ミャンマー産漆樹:チチオール(thitsiol):C22H3602

1984年に福井県若狭町の鳥浜貝塚より出土した木片が1万2600年前の漆の木であることが2011年の東北大学の調査で明らかになっており、これがいまのところ日本における最古の漆の木であるとされています。

漆と日本人

家具や器、あるいは家や船や橋までも木で作ってきた日本人は、「木」と共に生きてきた民族です。
木は温もりがあり再生産可能な素材ですが、水が浸み込んでしまうと汚れやすく放っておくと痛んでしまいます。その木を長く大切に使い続けるために、コーティング材として漆は使われてきました。漆の木に傷を付けると、その傷を修復しようと樹液が染み出してきます。それを使って木製品を守ろうとしたのが始まりです。

特殊な環境(温度15℃~25℃・湿度65%~85%)でしか乾かない漆は、一度乾いてしまえば漆を溶かす溶剤はないと言われるほど丈夫な塗料になります。また漆は接着力も非常に強く、一度乾燥してしまえば簡単に剥がれる事はありません。まさに日本人の暮らしにとってピッタリの素材だったのです。 またその神秘的な光沢と格調高い色合いは年月と共に更に深みを増していき、非常に文化的価値の高い建造物や漆器が今でも数多く残っています。

語源が「麗し(うるわし)」とも「潤し(うるおし)」とも言われる漆は木の中で唯一「きへん」ではなく「さんずい」で表されています。15年ほどもかけて育てた木からわずか牛乳瓶1本分ほどしか取れない漆の樹液に対する日本人の想いを伺い知る事ができます。 漆器の事を英語では小文字の「japan」を使って表します。漆器とは日本を代表するもの、日本独自のものであると世界が認識しているということなのです。

漆の用途

塗料

最も一般的な使われ方で、漆を塗られた道具を漆器と呼びます。漆塗りの道具は優美に輝き食器や高級家具から楽器まで広く用いられています。またその美しさと強靭さが高く評価され世界各国でも人気が高まっています。

漆は熱や湿気、酸・アルカリにも強い耐性を発揮し、腐敗防止や防虫の効果も絶大な事から食器や家具に多く用いられてきました。

接着剤
小麦粉と漆を練り合わせて、割れた磁器を接着することも江戸時代にはよく行わていました。硬化には2週間程度を要し、接着部分に黒漆を塗ってから赤漆を塗り金粉をまぶす金継ぎという手法は鑑賞に堪え工芸的価値を高めます。このことからも日本人の細やかな精神をうかがい知る事ができます。

食用
漆の新芽は食する事が可能で、みそ汁や天ぷらにする事が多いようです。山菜独特のえぐみが少なく食べやすとされていますが、かぶれのイメージが強く、また「食べた後に舌がピリピリした」という報告もあることから現在ではあまり食べる人はいないようです。本来は漆塗の職人が漆に対する免疫を得ようとして食べたのが始まりとされています。

漆の製法

樹液の採取
漆鎌という特殊な道具を使って漆の幹の表面に切り込みを入れ、染み出す樹液を缶などに溜めていきます。これを「漆掻き(うるしかき)」と呼びます。一年で樹幹の全体に傷を付けて漆液を採り切り、その後木を切り倒してしまう「殺し掻き法」と、数年に渡って採り続ける「養生掻き法」があります。

漆の木から漆液が採取できるまでには生育に8~13年を要し、1本あたりの産出量はわずか200グラム程度です。現在日本で使われている漆液のうち日本国内で採取されたものは全体の3%程度で、そのほとんどが中国産の漆液となっています。現在日本産の漆は戦時中の乱伐やその後の建築用材の植林、漆掻きに携わる人々の減少によって激減の一途を辿っています。

漆の精製
漆の木から掻き集めた樹液を「あらみ」と呼び、樹皮やゴミなどを取り除くために少し加熱して流動性を上げてから濾過します。現在では遠心分離器を使った濾過法も広く用いられ、濾過が終わったものを「生漆(きうるし)」と呼びます。生漆の精製は、撹拌(かくはん)して成分を均一にして粒子を細かくする「なやし」と、電熱や天日などで低温で水分を蒸発させる「くろめ」とに分かれます。またこれらの工程の途中で用途や品質に合わせて油分や鉄分等の添加剤が加えられて「精製漆」となります。精製漆には有油系と無油系の2系統に分類され、一般に有油系は発色・艶が良い事から加飾や上塗りに用いられ、無油系は研磨(研ぎ出しや蝋色仕上げなど)に用いられます。

漆ってどんな塗料

漆は他の合成樹脂塗料と違って、塗り上がった当初は全体に黒ずんだ色彩ですが月日を重ねるに連れ、どんどん鮮やかになっていきます。これは漆の良い変化と言えます。完成後もすすむ「漆の硬化作用」により薄く透明性を増すのです。

また、合成樹脂塗料は塗った時の方が最高の色艶ですが、そこから次第に劣化していきます。漆の場合は使えば使うほど色艶が増していきます。漆の耐久性を化学的にみると、漆塗膜の密度が塗布後20年間増し続けていることが証明されています。つまり硬くなり続けているのです。ただし漆も万能ではなく紫外線に弱いので屋内の塗料と言えます。ですから直射日光に長時間当てるのは避けた方が良いでしょう。

 

漆が化学塗料より優れている点

・天然の素材で安心・安全です

・自然の天然漆の香りで、化学塗料のような悪臭はありません

・塗膜は抗菌・殺菌性があり衛生的です

・循環型の資源で地球環境に負荷を与えません

・酸・アルカリ・シンナー・アルコールなどのいかなる薬品にも侵されません

・紫外線に長期間あたらなければ数千年も持ちます

・電気の絶縁性も非常に高く、耐水性・防腐性に優れています

・高分子なので拭けば拭くほど艶が出てきます

・塗った時の痩せがとても少なく美しく仕上がります

・金箔を貼ると色が自然で美しく仕上がります

・接着剤としても大変優れています(金箔などが剥がれにくい)

・「漆塗装」の表示でより高級グレードという好印象を与えます

・漆独自の三つの美感があります

・・ふっくら感・・・表面張力が他の塗料より大きい

・・深み感・・・屈折率が高い

・・しっとり感・・・漆の中のゴム質が水分を保湿する(瑞々しい)